平成24年度みんなで減災研究会を開催しました!~高層マンションの防災取り組み事例~
3月19日(水)、当研究所主催の平成24年度みんなで減災研究会「創意工夫でマンション防災対策」を開催しました。
今回の研究会は、板橋区の大規模マンション「サンシティ」から、25階建ての高層棟・G棟の委員長をゲストにお迎えし、防災の取り組みをお聞きしました。
● 概要
◇防災体制構築の最初の取り組み
防災体制を整えるためには、まず居住者の把握と広報手段を作ることが必要だと考えた。居住状況が一目でわかるよう、居住者名簿を元にエクセルで全戸の一覧図を作成した。広報手段としては、各階に1名フロア連絡係(回覧板の管理と災害時の安否確認を担当する)を選任して、回覧板を始めた。このことで、これまでとは比較にならないほど居住者への周知ができるようになった。
回覧板の他にも、周知事項の重要度に応じて、1階の掲示板→エレベータ内掲示→回覧板→全戸配布と、4つの方法で居住者に周知を図っている。
◇取り組むテーマを絞って居住者に呼びかけ
防災の取り組むべき課題はたくさんあるが、24年度は「まずわが身を守る」をテーマに、「家庭内備蓄」と「家具転倒防止」に絞って取り組んだ。
1月17日(阪神・淡路大震災)、3月11日(東日本大震災)、9月1日(関東大震災)など防災のニュースが報道される時期には、住民も防災に関心を寄せる。このときを捉えて、回覧板などで防災を呼びかけると、真剣に読んでもらえた。
◇家具の転倒防止器具の取り付け
大地震のとき、1階から25階まで何度も往復して人を助けるのは、体力的にたいへんな作業だ。それを少しでも軽減するために、平時のうちに棟内の家具を一個でも多く固定しておきたい。
家具転倒防止をいくら呼びかけても、高齢者の中には転倒防止具を買いに行くことも取り付けることもできない人がいる。そこで、棟委員会から流す防災チラシの下には、必ず「防災相談受け付け中」の一文を入れてある。相談をもらうと、その家に上がりこんで室内を点検し、用意した防災具の注文用紙にその場で注文してもらう。後日防災具が届いたら、また家に伺って転倒防止具を取り付けてあげる。すべては、災害時の作業を少しでも軽減するためである。
◇助けを求める「笛」の配布
マンションは防音性が高く、室内から助けを求めても、廊下まで聞こえない危険性が高い。そこで、中学生以上の居住者全員に、緊急用の笛を配布した。
1個100円の笛がどこまで有効か不明だが、居住者全員に笛を配ることによって、首都直下地震が切迫しているという意識を促すことになり、また棟委員会が居住者の安全を真摯に考えている、というメッセージを伝えられたと考える。
◇締め切りを設けて、携帯トイレを一括購入
大地震が起きると、排水管が破損している危険性があるので、トイレなどの排水は禁止することを居住者に伝えた。そこで問題になるのがトイレである。
各家庭で携帯トイレを備蓄してもらうために、近隣の取扱業者と交渉して、注文した家庭まで携帯トイレを配達し集金してもらう体制を調えた。
今年は、1月17日の防災ボランティア週間に合わせて、1月末日を締め切りにして、携帯トイレの購入申し込みを受けつけた。締め切りを設けないと、居住者は購入を先送りにしがちだ。締め切りを設けたことで、多くの居住者から注文が集まり、棟全体でのトイレ備蓄率は50%を越えた。今後も続けて備蓄率100%を目指したい。
◇停電とエレベーター対策
当マンションは内廊下なので、停電すると昼間でも真っ暗闇になる。非常灯は設置されているが、長時間点灯することはできない。そこで、内廊下用と非常階段用として、2個のLEDランタンと電池を配備した。置き場所は、各階の消火栓ボックス内である。
エレベーターの閉じ込め対策として、エレベーター内に備蓄ボックスを設置した。市販のものは高額なため、棟委員会で備蓄品を買い集め、自作した備蓄ボックスに収納して、エレベーター内に設置した。手作り感がたいへん好評であった。
◇居住者相互で安否確認
大地震発生時の安否確認は、10名の棟委員だけでは人手が足りず、フロア連絡係も在宅とは限らないので、居住者相互で安否確認する体制にしている。
まず、各戸で安否確認用ステッカーを玄関ドアに貼りだし、消火栓に置かれたフロア別安否確認シートに自分の安否を記入する。そして、フロア係などその場にいた人が安否を集計し、1階に設置された棟対策本部に届けることになる。
しかし、エレベーターが停止している中で、1階まで往復するのはたいへん困難である。そこで、建物の外壁に最上階から地上まで、細いロープを張り下ろし、フロア別安否確認シートをカードケースに入れ、ロープに付けて地上に投下する仕組みを作った。
◇安否未確認世帯の立入調査
安否確認の目的は、負傷者の救助である。しかし安否不明の家庭が、単に留守なのか、それとも声を上げることもできないほど負傷しているのか、判断は非常に難しい。万一、家具などの下敷きになっている場合、地震発生から72時間が生死の分かれ目といわれているで、いつまでも放置しておくわけにはいかない。
人命優先で考えると、地震発生から24時間後から、ベランダ側から進入して立ち入り調査を開始したい。ただし、これは難しい問題である。立ち入りのルールや、立ち入りを望むか事前に確認することなど、実施方法を検討中である。
◇災害時要援護者対策
災害時の避難に支援が必要な「要・避難支援家庭」を、毎年選定している。その情報を上下3フロアの居住者に伝えて、災害時の協力を要請する取り組みを始めている。